巷ではイノベーションが叫ばれています。また、イノベーションは僕の研究トピックの一つです。
というわけで、早速日本に帰った時に、新刊の「イノベーション思考法」黒川清著2008年PHP新書を購入しました。
黒川清氏は、以前紹介した「世界級キャリアの作り方」の共著者です。前著がよかったことと、最近ぼくらの分野の日本の総本山、政策研究大学院大学の教授に就任したり、内閣顧問や政府のイノベーション会議の座長を務めたりしているので購入しました。
イノベーションというと、研究開発と訳すこともあるようですが、本著では著者はイノベーションをより広くとらえ、「新しい社会的価値の創造」(P4)と定義しています。そして、「イノベーションの課題を通して、日本の課題は何かを」述べています(p.226)。
なぜ、イノベーションが大切とみなされるようになったか背景を3つあげています(p4-5)。1つに、「フラット化」した情報社会で、新しい価値やビジネスモデルを創造する競争が増えてきていること。2つ目に、気候変動、水や食糧問題、資源といった地球規模の解決策の模索が本格的に始まったこと。3つ目に、情報化したおかげで、先進国の豊かな人々が、それとは反対の状況に置かれている人々の存在に気が付き始めたこと。
第1章では、現代社会でイノベーションが重宝されるようになった時代背景を、第2章では、イノベーションの歴史を産業革命、アメリカのフォードシステム、戦後の日本の経済発展を中心に論を展開しています。第3章では,現代のグラミン銀行、グーグル、アップル、日産のカルロスゴーンの改革を引き合いに出しながら、現代のイノベーションに必要なことをあげつつ、日本社会の欠点をあげています。第4章では、日本の課題を指摘しています。安定を好み、変化を好まない社会、変化を起こしにくい社会構造、おもに、政産官の鉄のトライアングル、企業や大学の年功序列式の昇進システムをその主な原因に挙げているように思います。そして、最終章では、イノベーションを起こすための20の心得をあげています。
感想ですが、本書の背景の捉え方は、以前紹介した
「ハイ・コンセプト新しいことを考え出す人の時代」と共通していて、現代の国際社会の流れを巧みにとらえていると思います。個人レベル、企業レベルから、日本全国レベルのイノベーションについて述べています。ただ、入門書としては「入りやすい」ですが、少しでもこの手の書籍を読んだことがある人には物足りなさがあるかとおもいます。
たとえば、日本社会の一般論に終始していたことかと思います。「いじめ」や「日本経済の終身雇用」「政産官の鉄のトライアングル」など日本経済システムの弱い点としてよく言われている点を、よく言われている視点から論じているように思います。
また、最終章の心得も、「個人」「企業」「日本社会」レベルでの心得が混在しているように思います。本著は、帯で「新しい価値観を生み出せる頭の使い方」と謳い、著者自身も読者を若いビジネスマンを想定していますが、それもちょっと僕には理解できませんでした。
イノベーションを通して日本社会をみる視点を提供してくれる「評論本」で、企業や個人レベルで、イノベーションをどのようにしたらおこすことができるのかというノウハウ本やケーススタディの本ではありません。
というわけで、ちょっと期待はずれでした・・・・